米国で大規模な流行が確認されたサイクロスポーラ症
2026/10/16
(日本での発生の多くは、海外で感染し、帰国後日本で診断された輸入症例であり、これまで大規模な流行は確認されていません。詳細については参照資料を確認いただきますよう、お願いいたします。)
1.概要
サイクロスポーラ症(Cyclosporiasis)は、Cyclospora cayetanensisという微小な寄生性の原虫によって引きおこされる消化管の感染症です。主な症状は、水様性の下痢、食欲低下、体重減少、腹痛・腹部のけいれん、腹部膨満、放屁、吐き気、疲労などです1), 2)。
ヒトへの感染は、C. cayetanensisのオーシスト(oocyst)に汚染された食品や水を口からとることにより成立します。特に米国では、輸入された生鮮野菜や果物などを介した集団発生が問題となっています1), 3)。
2.2026年の米国における大規模流行
2026年には米国でサイクロスポーラ症の大規模な流行が確認されました。
米国Food and Drug Administration(FDA)(米国食品医薬品局)及び米国Centers for Disease Control and Prevention(CDC)(米国疾病予防管理センター)によれば、2026年5月1日から9月15日までに、米国内で19,883名(入院者数1,064名、死亡2名)の検査陽性事例(発症前14日間は米国外への旅行歴無し)がCDCに報告され、このうち12,883名(49州とコロンビア特別区)が原因としてメキシコ中部産のアイスバーグレタス(Iceberg lettuce)(玉レタスの一種)が関連し、米国内の多くの州にまたがる大規模な流行となりました(以前に米国ファストフードチェーンのタコベルで食事をした者も含む)4), 5), 6)。
米国のFDAとCDCなどがこの流行に関する調査を行い、テイラー・ファームズ・ド・メキシコ(Taylor Farms de Mexico)社が供給したアイスバーグレタスを原因食品として追跡調査を開始しました5)。
サイクロスポーラ症の患者の分布地図(出典:CDC)
リコール製品の流通状況を示した地図(出典:FDA)
FDAは、7月16日に調査について公表し、7月17日に原因食品の供給元への追跡を行い、7月18日には同社による自主回収が開始されました。その後、メキシコの生産・加工施設における調査も実施しました。メキシコで採取したサンプルのうち、2件はサイクロスポーラ検査陽性でした。一つは、テイラー・ファームズ・ド・メキシコ社の施設の廃水タンクから、もう一方は、FDAの追跡調査で特定したアイスバーグレタスの生産者の排水溝から採取されたものであり、詳細な分析を続けています5)。
2026年9月11日、CDCはアイスバーグレタスに関連する多州集団発生は終息したと宣言しました。10月2日、FDAはこの流行に関する調査を終了すると発表しました7), 8), 9)。
3.経緯
サイクロスポーラ症は、1970年代後半から人の感染症として認識されるようになりました。その後、熱帯・亜熱帯地域への旅行者における長期間の下痢の原因として知られるようになり、1990年代には米国でも食品を介した集団発生が報告されるようになりました10)。
米国では、1990年代以降、生鮮農産物を介したサイクロスポーラ症の集団発生が繰り返し確認されています。原因食品として、これまでにラズベリー、バジル、コリアンダー、レタス類などが報告されています10)。
4.病原体
サイクロスポーラ症は、ヒトの小腸に寄生する単細胞原虫Cyclospora cayetanensisよって引き起こされます。Cyclospora cayetanensisは、分類学的にはアピコンプレックス門(Apicomplexa)、アイメリア科(Eimeriidae)に属するコクシジウム類です11), 12)。C. cayetanensisは、ヒトの小腸で増殖し、最終的にオーシストを形成して便の中に排出されます。感染者から排出された直後の未成熟のオーシスト(直径8〜10μmの球状)は、すぐには感染性を持たず、環境中で成熟(胞子形成:sporulation)するための時間(適当な条件下で約7~14日)がかかります13)。
現時点では、C. cayetanensisの自然宿主はヒトであり、ヒト以外の動物が主要な感染源になることは確認されていません12)。したがって、ヒトが犬や猫などのペット、家畜などからC. cayetanensisに明確に感染した知見は現時点ではありません。
(出典:CDC)
5.伝播様式
サイクロスポーラ症は、主としてヒトがC. cayetanensisで汚染された糞便によって汚染された食品や水を摂取することにより感染します1), 14)。
感染の様式は、感染者→便中にオーシストを排出→環境中で胞子形成→食品・水を汚染、そしてヒトがそれらを摂取することにより感染します13)。上記胞子形成のために少なくとも1~2週間を要するため、サイクロスポーラの直接的なヒトからヒトへの感染(糞経口感染)は考えにくいとされています15)。
6.ヒトの症状
通常は感染から約1週間後に発症しますが、2日程度から2週間以上の場合もあります1)。
主な症状は、
1)水様性の下痢
2)食欲低下
3)体重減少
4)腹痛・腹部のけいれん
5)腹部膨満
6)放屁
7)吐き気
8)疲労
などです15)。
C. cayetanensisに感染したヒトの中には、症状が確認できないこともあります。治療しない場合、脱水症状や重篤な合併症を引き起こし、症状が数日から1か月以上続くことがあります。また、症状がなくなった後に再び症状が現れることもあります5)。
7.動物の症状
C. cayetanensisの動物への感染について、現在のところ確立した知見ははなく、ヒトが主要な宿主と考えられています12)。
8.診断方法
サイクロスポーラ症の診断のための検査にヒトの便を用います。
サイクロスポーラのオーシストを顕微鏡で確認する方法や、染色法、紫外線蛍光顕微鏡、分子生物学的手法などが使用されます13) ,16)。
サイクロスポーラは、医療機関の便の検査において、必ずしも検査の対象となっておらず、同機関でサイクロスポーラ症が疑われる場合、必要に応じて検査を外部に依頼する必要があります16)。また、C. cayetanensisのオーシストは便中に一定量ずつ排出されるとは限らないため、状況によっては複数回の便の検査が必要となる場合があります16)。
9.治療
サイクロスポーラ症の治療には、トリメトプリム・スルファメトキサゾール(TMP-SMX)が第一選択薬として用いられます10), 12), 15)。下痢が続く場合には、脱水を防ぐために十分な水分を摂取することも重要です1)。
10.予防
現在、サイクロスポーラ症を予防するワクチンはありません。そのため、食品や水を介した感染を防ぐことが重要です17)。
C. cayetanensisなどのコクシジウム類全般は、環境抵抗性の高いオーシストを形成する原虫であることから、消毒剤や消毒薬に対して抵抗性があります12)。
上記をふまえ、サイクロスポーラ症の予防の基本は、食品や水がC. cayetanensisによって汚染された糞便によって汚染されることを防ぐことです。
CDCは、以下の内容を家庭で取るべき行動として挙げています18)。
1)手洗い:生の果物・野菜を扱ったり調理したりする前後に、石鹸と水で手を洗う
2)果物・野菜を洗う:調理前、すべての果物・野菜は流水でしっかり洗う。メロンやキュウリなどの固い果物・野菜については、流水下で清潔なブラシで洗う。併せて損傷している部分は切除する。
3)加熱:洗浄だけでは寄生虫除去を担保できないため、加熱可能な食品については、少なくとも70度まで加熱する。
4)冷蔵:調理した果物・野菜は可能な限り早く(2時間以内に)冷蔵保存する。
5)情報の入手:食品のリコール情報や行政機関の注意喚起に注意し、リコールされた食品は処分するまたは店舗に返品する。
また、サイクロスポーラ症が頻発する熱帯または亜熱帯地域を旅行する場合、食物や水の洗浄だけでは、C. cayetanensisのオーシストを完全に除去する可能性は低いことに留意し、加熱可能な食品は加熱するよう注意喚起しています18)。
<参照資料>
1)米国CDC:About Cyclosporiasis(https://www.cdc.gov/cyclosporiasis/about/index.html)
2)米国CDC:Symptoms of Cyclosporiasis(https://www.cdc.gov/cyclosporiasis/signs-symptoms/index.html)
3)米国CDC:Risk and Cyclospora(https://www.cdc.gov/cyclosporiasis/risk-factors/index.html)
4)米国FDA:Post-Outbreak Response Activities: Multistate Outbreaks of Cyclospora Illnesses(https://www.fda.gov/food/outbreaks-foodborne-illness/post-outbreak-response-activities-multistate-outbreaks-cyclospora-illnesses?utm_source=chatgpt.com)
5)米国FDA:Investigation of Multistate Outbreak of Cyclospora Illnesses: Iceberg Lettuce (July 2026)(https://www.fda.gov/food/outbreaks-foodborne-illness/investigation-multistate-outbreak-cyclospora-illnesses-iceberg-lettuce-july-2026?utm_source=chatgpt.com)
6)米国CDC:Cyclospora Case Data(https://www.cdc.gov/cyclosporiasis/cases/index.html)
7)米国CDC:Cyclospora Outbreak Linked to Iceberg Lettuce(https://www.cdc.gov/cyclosporiasis/outbreaks/07-26/index.html?utm_source=chatgpt.com)
8)米国FDA:Post-Outbreak Response Activities: Multistate Outbreaks of Cyclospora Illnesses(https://www.fda.gov/food/outbreaks-foodborne-illness/post-outbreak-response-activities-multistate-outbreaks-cyclospora-illnesses?utm_source=chatgpt.com)
9)米国CDC:Cyclospora Case Data(https://www.cdc.gov/cyclosporiasis/cases/index.html)
10)Ynes R Ortega, Roxana Sanchez. 2010. Update on Cyclospora cayetanensis, a Food-Borne and Waterborne ParasiteClin Microbiol Rev. 23(1): 218-234. (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2806662/?utm_source=chatgpt.com)
11)NCBI, Cyclospora cayetanensis)(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=88456&utm_source=chatgpt.com)
12)Sonia Almeria. et al. 2019. Cyclospora cayetanensis and Cyclosporiasis: An Update. Microorganisums. 7(9):317. (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6780905/?utm_source=chatgpt.com)
13)米国CDC:Cyclosporiasis(https://www.cdc.gov/dpdx/cyclosporiasis/index.html?utm_source=chatgpt.com)
14)米国CDC:Risk and Cyclospora(https://www.cdc.gov/cyclosporiasis/risk-factors/index.html)
15)CDC:Clinical Overview of Cyclosporiasis(https://www.cdc.gov/cyclosporiasis/hcp/clinical-overview/index.html?utm_source=chatgpt.com)
16)米国CDC:Clinical Diagnosis and Testing for Cyclosporiasis(https://www.cdc.gov/cyclosporiasis/hcp/diagnosis-testing/index.html)
17)米国CDC:Clinical Care of Cyclosporiasis(https://www.cdc.gov/cyclosporiasis/hcp/clinical-care/index.html?utm_source=chatgpt.com)
18)米国CDC:Preventing Cyclosporiasis(https://www.cdc.gov/cyclosporiasis/prevention/index.html)
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