北海道初のSFTS症例―症例報告から明らかになったこと

2026/10/2

2025年8月6日、北海道で初めての、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)患者が確認されました(1)。本症例について、症例報告が公開されましたので、この記事ではその内容を紹介します。検査や症例の詳細については以下の論文(英語)をご参照ください。https://doi.org/10.1016/j.ijregi.2026.101004

 

(One Healthリサーチセンター 直 亨則)

 

1.SFTS

 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、SFTSウイルスによって引き起こされる感染症であり、ウイルスは主にマダニによって媒介されるほか、SFTSを発症している人や動物との接触によって感染することもあります。SFTSウイルスは2011年に中国で初めて報告され(2)、日本では2013年に初の患者が山口県から報告されました(3)。その後、国内では毎年ヒト症例が報告されており、2025年には患者数が過去最多となりました*。また、SFTSウイルスはイヌやネコにも感染し、病気を引き起こすことが知られており、2025年には症例数がイヌ、ネコともに過去最多となりました**。

 これまで、ヒト、イヌ、ネコのSFTS症例は主に西日本から報告されてきましたが、2025年には東北地方(秋田県)および北海道で初めてのヒト症例が報告されました。秋田県で届け出られた症例は、秋田県内での感染とは推定されていません。一方、今回報告する北海道の症例は、北海道を推定感染地域とするものでした。

 

*感染症発生動向調査による

**SFTS診断ネットワークの報告による

 

2.症例

 患者は北海道在住の60代男性であり、初期の症状は発熱、頭痛、下痢でした。その後、倦怠感、白血球と血小板の減少および、AST、ALT、クレアチニン、BUNの上昇が確認されました。発症後6日目に採取された血清検体において、定量逆転写PCR法でSFTSウイルス特異的核酸が検出されました。発症後9日目から10日間抗ウイルス薬(ファビピラビル)の投与が行われ、発症後19日目に男性は退院しました。急性期には、吃音様の発話や短期記憶障害を含む一過性の神経症状が見られましたが、頭部MRIでは脳炎を示唆する所見は認められず、これらの神経症状は回復に伴って消失しました。発症後4日目、5日目、19日目に採取された血清検体からSFTSウイルス特異的中和抗体が検出され、中和抗体価は経時的に上昇していました。さらに、発症後3日目に採取された血清検体から感染性のSFTSウイルスが分離培養されました。

 ライム病、回帰熱、ダニ媒介性脳炎、エゾウイルス感染症に関しても検査を実施しましたが、病原体特異的核酸、および病原体特異的抗体は検出されませんでした。なお、男性に発症前1か月間に道外への移動歴はなく、発症前には草刈りなどの野外活動歴およびマダニに咬まれた経過があり、SFTSが疑われるヒトや動物との接触歴はありませんでした。

 

3.ウイルスの性状

 分離されたウイルスのほぼ全長遺伝子配列を用いて系統解析したところ、これまでに報告されている既存の系統(クレード)のいずれにも明確には分類されないことが分かりました。また、各既存系統との遺伝子配列の相同性を比較したところ、本ウイルスと各系統に属するウイルスとの相同性は、その系統内のウイルス同士でみられる相同性よりも低く、この結果も遺伝子系統解析の結果を支持するものです。

 

4.まとめ

 本症例における正確な感染経路は不明ですが、発症前の経過から、北海道内でマダニからSFTSウイルスに感染した可能性が考えられます。ウイルスを保有するマダニが、鳥類や野生動物、ヒトなどに付着して北海道に運ばれてきた可能性も否定できません。一方、本症例から見つかったウイルスは既報の国内株・海外株とは異なる系統と考えられ、北海道外のSFTS発生地域との関連はありません。したがって、北海道内で以前から維持されていたウイルスであるか、北海道外の地域で未発見の系統が持ち込まれたもののどちらかであると考えられますが、本症例のみからは判断することはできません。

 北海道ではこれまでにエゾシカを対象とした血清疫学調査が実施されましたが、いずれの調査においてもSFTSウイルス特異的抗体は検出されませんでした。一方、過去の全国的なマダニ調査では、北海道においてもSFTSウイルス遺伝子が検出されたマダニが確認されています(4,5,6)。北海道におけるSFTSウイルスの感染リスクを適切に評価するためには、マダニ等におけるウイルスの保有状況、SFTSウイルスを媒介するダニの生息状況等に関する継続的な調査が必要です。一方、北海道ではライム病、回帰熱、ダニ媒介性脳炎、エゾウイルス感染症など様々なダニ媒介性感染症の発生が報告されています。マダニは春から秋にかけて活動が活発になります。草むらなどマダニが多く生息する場所に入る場合には、長袖、長ズボンの着用など肌の露出を避ける、マダニに有効な忌避剤(虫よけ剤)を使用する、野外活動後に衣服や体へのマダニの付着を確認するなど、マダニに刺されないようにすることが、ダニ媒介性感染症の予防に重要です。マダニに咬まれた場合には、無理に指で引き抜くとマダニの一部が皮膚内に残るおそれがあるため、可能であればヒトでは皮膚科などの医療機関、動物では動物病院で除去してもらってください。すぐに受診することが難しい場合には、専用のマダニ除去器具(ティックリムーバー)等を用いて除去する方法もあります。また、マダニに咬まれた後、数週間程度は体調の変化に注意し、発熱などの症状が認められた場合には、医療機関または動物病院を受診してください。

 

5.SFTSの検査【医療従事者、動物医療従事者の皆様へ】

 ヒトのSFTS疑い症例につきましては、感染症発生動向調査の一環として行政検査が実施されています。SFTSが疑われる場合、所轄の保健所にご相談ください。

動物のSFTSの検査は、道内ではNDTS株式会社、酪農学園大学、北海道大学One Healthリサーチセンターで実施されています。なお、酪農学園大学での検査については、北海道獣医師会から案内されています。北海道大学One Health リサーチセンターへのSFTSの検査ご依頼は下記リンク中「動物感染症パネル依頼フォーム」の「ダニ媒介性感染症パネル」よりご依頼ください。

https://ohrc.vetmed.hokudai.ac.jp/special-inspection/#about

 

 なお、北海道大学One Health リサーチセンターでは新規病原体の検出にも対応可能な網羅的検査等を実施しています。ヒト・動物いずれの検体についても、医療機関・獣医療機関等からのご相談を受け付けています。検査に関するお問い合わせは下記までお願いいたします。

kensa@ohrc.hokudai.ac.jp

 

本研究は、患者様ならびにご家族の皆様をはじめ、診療・検査に携わられた医療従事者の皆様、検査、疫学調査等を担われた行政機関、研究機関の皆様など、多くの関係者のご尽力のにより実施されました。ここに改めて心より御礼申し上げます。

 

(1) 札幌市、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の発生について:https://www.city.sapporo.jp/hokenjo/f1kansen/documents/20250807press_2.pdf

 

(2) Yu XJ, Liang MF, Zhang SY, Liu Y, Li JD, Sun YL, et al. Fever with thrombocytopenia associated with a novel bunyavirus in China. N Engl J Med. 2011;364(16):1523-1532. doi:10.1056/NEJMoa1010095.

 

(3) Takahashi T, Maeda K, Suzuki T, Ishido A, Shigeoka T, Tominaga T, et al. The first identification and retrospective study of severe fever with thrombocytopenia syndrome in Japan. J Infect Dis. 2014;209(6):816-827. doi:10.1093/infdis/jit603.

 

(4) Lundu T, Yoshii K, Kobayashi S, Morikawa S, Tsubota T, Misawa N, Hayasaka D, Kariwa H. Serological survey of severe fever with thrombocytopenia syndrome virus infection in Sika deer and rodents in Japan. Jpn J Vet Res. 2018;66(1):21-28. doi:10.14943/jjvr.66.1.21.

 

(5) Uchida L, Hayasaka D, Tun MMN, Morita K, Muramatsu Y, Hagiwara K. Survey of tick-borne zoonotic viruses in wild deer in Hokkaido, Japan. J Vet Med Sci. 2018;80(6):985-988. doi:10.1292/jvms.18-0017.

 

(6) 国立感染症研究所.<速報>重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスの国内分布調査結果(第二報).2014年2月25日.

https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/sfts/sfts-iasrs/4428-pr4094.html

 

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